口腔機能向上加算とは?デイサービス管理者が知っておくべき算定要件・方法を解説【令和3年度改定対応】

コラム

近年、高齢者の栄養や健康状態を保つために、口腔機能の維持・向上が重要視されています。口腔機能向上加算は、「食べる」「話す」といった口腔機能の維持・向上の取り組みを実施する介護施設が算定できる介護報酬です。デイサービスの管理者のなかには、利用者の栄養や健康状態のほか、事業所の売上アップを兼ねて口腔機能向上加算の導入を検討している方もいるでしょう。ここでは、口腔機能向上加算の算定要件を説明するとともに、売上への影響や介護事業所の取得状況をお伝えします。

口腔機能向上加算とは?

口腔機能は、歯や舌・唾液腺などから構成され、「食べる」「話す」「呼吸する」「表情をつくる」といった活動を支えています。高齢者の場合、口腔機能を維持・向上することで、誤嚥性肺炎や窒息のリスクを下げたり、栄養状態や生活能力を改善したりする効果があります。口腔機能向上加算は、デイサービスをはじめとする介護施設において、口腔機能の低下または低下するおそれがある利用者に対し機能向上の取り組みを強化する目的に、平成18年度に導入されました。令和3年度の介護報酬改定では、口腔機能向上加算(Ⅱ)が新設され、科学的介護情報システム(LIFE)へのデータ提出とフィードバックの活用が算定要件に組み込まれ、要介護高齢者の口腔機能に関しても、科学的根拠に基づくケアが推進されています。

デイサービスにおける口腔機能向上加算の算定要件

口腔機能向上加算には、(Ⅰ)と(Ⅱ)の2種類があります。つづいては、それぞれの算定要件を解説します。なお、口腔機能向上加算(Ⅰ)と(Ⅱ)は、併算定できません。

口腔機能向上加算(Ⅰ)

以下の基準を満たし、都道府県に届けていること

  • 言語聴覚士、歯科衛生士又は看護職員を一名以上配置していること。
  • 利用者の口腔機能を利用開始時に把握し、言語聴覚士、歯科衛生士、看護職員、介護職員、生活相談員その他の職種の者が共同して、利用者ごとの口腔機能改善管理指導計画を作成していること。
  • 利用者ごとの口腔機能改善管理指導計画に従い言語聴覚士、歯科衛生士又は看護職員が口腔機能向上サービスを行っているとともに、利用者の口腔機能を定期的に記録していること。
  • 利用者ごとの口腔機能改善管理指導計画の進捗状況を定期的に評価すること。

(参照元:厚生労働省|令和3年度介護報酬改定について

【算定要件のポイント】

  • 言語聴覚士、歯科衛生士、看護職員は、非常勤・兼務が可能である。
  • 言語聴覚士、歯科衛生士、看護職員がおこなう口腔機能向上サービスは、利用者の口腔機能向上を目的とした口腔ケア指導・訓練、または摂食嚥下訓練・指導を指す。
  • 口腔機能向上加算の対象となる利用者は、口腔機能の低下または低下するおそれがあるもの。例えば、お茶を飲み時にむせやすい、歯磨きをしても口の中に汚れが残っている、食物を食べやすい大きさに処理する介助を要すといったケースが該当する。

口腔機能向上加算(Ⅱ)

以下の基準を満たし、都道府県に届けていること

  • 口腔機能向上加算(Ⅰ)の基準を満たしていること。
  • 利用者ごとの口腔機能改善管理指導計画等の情報を厚生労働省に提出し、口腔機能向上サービスの実施に当たって、当該情報その他口腔衛生の管理の適切かつ有効な実施のために必要な情報を活用していること。

(参照元:厚生労働省|令和3年度介護報酬改定について

【算定要件のポイント】

  • 口腔機能向上加算(Ⅰ)の取り組みに加えて、LIFEへの提出情報とフィードバック情報を活用しながら、口腔機能向上サービスの実施や効果判定・改善をおこなうこと。

口腔機能向上加算の単位数

口腔機能向上加算で算定できる単位数は、次のようになります。

  • 口腔機能向上加算(Ⅰ) 150単位/回
  • 口腔機能向上加算(Ⅱ) 160単位/回

口腔機能向上加算(Ⅰ)と(Ⅱ)は、ひとりの利用者に対し、口腔機能向上サービスの提供から3ヵ月以内の期間に限り、1ヵ月に2回を限度に算定することができます。また、口腔機能向上サービスの提供から3ヵ月経過後の再評価時に口腔機能の向上が見られず、サービスの継続が必要な場合には引き続き算定が可能です。

デイサービスで口腔機能向上加算を算定した時の売上シミュレーション

では、デイサービスで口腔機能向上加算を算定すると、どのように売上が変わるのでしょうか?以下の表は、口腔機能向上加算なし・(Ⅰ)を算定・(Ⅱ)を算定した場合の売上の違いをシミュレーションしたものです。

【例:東京都23区(1単位:10.90円)にあるデイサービス、週5日・9:00~17:00に勤務している看護職員を口腔機能向上サービス担当者として配置、月2回以上通所しているデイサービスの利用者10名を対象に口腔機能向上サービスを提供】

1ヵ月の売上 3ヵ月の売上
口腔機能向上加算なし 0円 0円
口腔機能向上加算(Ⅰ)算定 32,700円 98,100円
口腔機能向上加算(Ⅱ)算定 34,880円 104,640円

口腔機能向上加算(Ⅰ)または(Ⅱ)を取得すれば、3ヵ月で約10万円の売上アップにつながります。例えば、口腔機能向上サービスに対応できる看護職員がいたり、言語聴覚士が在籍していたりする事業所であれば、口腔機能向上加算を算定するために、新たな人件費をかける必要がありません。そうしたデイサービスでは、口腔機能向上加算を算定することで、事業所の利益をあげることができるでしょう。

デイサービスの口腔機能向上加算の取得状況

要介護高齢者は、口腔内の健康管理が必要であるケースが多いですが、実際には、口腔機能向上加算を算定しているデイサービスは少ない状況です。平成31年に、東京都健康長寿医療センターがまとめた「通所サービス利用者等の口腔の健康管理及び栄養管理の充実に関する調査研究事業報告書」によれば、調査対象である1,210箇所のデイサービスのうち、口腔機能向上加算の算定実績があったのは12.2%(約150箇所)でした。口腔機能向上加算を算定しない理由としては、「口腔機能向上加算が必要な利用者の把握が難しい」「口腔機能向上加算の必要性について利用者(家族)の同意を得ることが難しい(歯科専門職がいないので必要性をうまく説明できない)」が多くなっています。

口腔機能向上加算を算定する利点・問題点

デイサービスの口腔機能向上加算の取得状況からもわかるように、事業所によっては、口腔機能向上加算を取得することに必ずしもメリットがあるとは限りません。そこで、口腔機能向上加算を取得する利点と問題点を確認してみましょう。

利点

  • 事業所の売上がアップする
  • 口腔機能向上加算を取得すれば、1ヵ月に数万~数十万円の売上がアップします。ただし、口腔機能向上加算を取得するために、新たに言語聴覚士や歯科衛生士・看護職員を雇用するとなれば、人件費がかかる分、専門職に支払う給与によっては全体の利益が下がってしまう可能性があることに注意が必要です。

  • 利用者の栄養や健康状態が改善する
  • 最近では、積極的な運動プログラムを取り入れるデイサービスが増えていますが、生活機能を改善するには、食事が欠かせません。バランス良く栄養を摂取したり、楽しく食事をしたりすることで、心身の健康が維持・向上できるのです。例えば、食物を噛む力が強くなったり、楽に飲み込んだりできるようになるなど。食事の負担が軽減すると、色々な食物が摂取できるようになります。食事の状態が変われば、利用者の栄養や健康状態の改善も期待できます。

問題点

デイサービスで口腔機能向上加算を導入する際の問題点は、人員の確保です。口腔機能向上加算を算定するには、言語聴覚士や歯科衛生士・看護職員の配置が必要です。事業所のなかには、「口腔機能向上サービスに費やせるマンパワーがない」というケースもあるでしょう。このような場合には、非常勤で言語聴覚士や看護職員を雇用するのもひとつです。また、同じ法人内に歯科衛生士が在籍している事業所であれば、口腔機能向上サービスの提供を目的に、デイサービスを兼務してもらうという方法もあります。

いずれにしても、口腔機能向上加算を算定する利点・問題点を十分に踏まえながら、事業所での導入を検討しましょう。

デイサービスで口腔機能向上加算を取得するために必要な手続き

デイサービスにおける口腔機能向上加算の利点・問題点を理解した上で、ここからは加算を取得するための手続きについて、ポイントを説明します。

  1. 1.スクリーニング・アセスメントの実施
  2. まずは、口腔機能の低下または低下するおそれがある利用者の口腔衛生や摂食・嚥下機能の状態を確認し、解決すべき課題があるか見極めます。

  3. 2.口腔機能改善管理指導計画の作成
  4. 次に、口腔機能向上サービスの提供に関連する職種が共同し、「口腔機能改善管理指導計画」を作成します。以下は、厚生労働省が呈示している計画書の様式例です。

    厚生労働省|口腔機能向上サービスに関する計画書(様式例)

  5. 3.利用者またはその家族への説明
  6. 計画書作成後、口腔機能向上サービスの目標や内容に関して、利用者本人や家族に説明し、サービス提供に対する同意を得ます。

  7. 4.口腔機能向上サービスの実施
  8. それから、口腔機能向上サービスを実施します。口腔機能向上サービスでは、「口腔機能改善管理指導計画」に基づき、口腔ケアや摂食・嚥下訓練を言語聴覚士や歯科衛生士・看護職員が直接実施または指導をおこないます。

  9. 5.モニタリング・再把握
  10. 口腔機能向上サービスの実施後は、適宜モニタリングをおこない、利用者の口腔機能の状態を確認・記録します。また、3ヵ月ごとに、「口腔機能改善管理指導計画」で立案した課題や目標の進捗状況を再把握します。課題が解決していたり、目標が達成できたりしていれば、口腔機能向上サービスを終了、引き続きケアが必要であればサービスを継続します。

    以上が、デイサービスで口腔機能向上加算を取得するために必要な手続きです。
    手続きに不備があれば、口腔機能向上加算が算定できなかったり、介護報酬の返還をしたりするといった事態になってしまうことも。そのため、口腔機能向上加算の導入を検討されている管理者の方は、下記の厚生労働省の通知もしっかりチェックしましょう。

    厚生労働省|リハビリテーション・個別機能訓練、栄養管理及び口腔管理の実施に関する 基本的な考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について

    口腔機能向上加算の取得に対応「はやまる」

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