歩行分析にIoTを活用するには?IoT機器の種類や選ぶポイントを紹介

コラム

全身運動である歩行は、心身機能や生活能力の維持・向上に良い影響があります。とはいえ、専門的な知識・経験が少ない人からすると、クライアントの歩行状態を正確に評価・分析するのは難しいものです。「歩行の評価・訓練をどのようにおこなえば良いか?」悩んでいる医療介護従事者もいるでしょう。
しかしながら、近年では、歩行分析をサポートするさまざまなIoT機器が販売されています。これらの機器は、カメラやセンサーなどを使用して歩行状態をデータ化できるため、誰でも歩行分析がおこないやすいのが特徴です。そこで今回は、歩行分析の評価・訓練に悩む医療介護従事者に向け、IoTを活用するメリットを説明するとともに、機器の種類や選ぶポイントについてお伝えします。

従来の歩行分析の問題点

平成27年、社会保障審議会介護給付費分科会は「リハビリテーションにおける医療と介護の連携に関する調査研究」として、「病院(外来リハビリ)」「通所介護事業所」「通所リハビリテーション事業所」各1,000件を対象に、施設で実施しているリハビリ内容について調査しました。本調査では、病院400件、通所介護事業所504件、通所リハビリテーション事業所573件から回答が得られ、歩行訓練(屋内)を実施している割合は、病院が63.9%、通所介護事業所が68.6%、通所リハビリテーション事業所が71.1%という結果でした。

このように、多くの医療介護施設で実施されている歩行訓練ですが、リハビリ専門職がいない施設では、クライアントの歩行分析に難渋することもあるでしょう。
それといのも、歩行分析には、解剖学・運動学の知識が不可欠だからです。また、それらに加えて、歩行分析には、クライアントの体格や歩き方の癖・生活様式などを肉眼で評価しながら「ご本人にとって理想的な歩行」を見極められる経験が必要になるからです。知識と経験を兼ね備えたリハビリ専門職でなければ、クライアントの歩行の状態を評価し、課題を分析できないというのが、従来の歩行分析の問題点です。

歩行分析をサポートするIoT

歩行分析にIoTを活用すれば、リハビリの専門的な知識・経験が少ない医療介護従事者でも、クライアントの歩行状態を評価し、課題を分析することができます。
最近では多くのメディアで「IoT」という言葉を見聞きするようになりましたが、そもそもIoTとは、どのようなものなのでしょうか?まずは、IoTの概要を解説し、それに続けて歩行分析にIoT機器を活用するメリットを紹介します。

IoTとは?

IoTは、Internet of thingsの略で、さまざまなモノがインターネットに繋がることを指します。代表的なIoTには、スマートフォンで操作できるロボット掃除機や扉のスマートロックシステム、人を感知して反応する人感センサー、人の声を認識して情報の検索や家電の操作などをおこなうスマートスピーカーなどがあります。人が作業する手間を省いたり、作業の質を高めたりといったように。IoTは、人の暮らしを便利にするツールとして、幅広い分野で活用が推進されています。

歩行分析にIoTを活用するメリット

歩行分析にIoTを活用するメリットは、主に3つです。

①専門的な知識・経験が少なくても歩行分析ができる
カメラで人体を撮影したり、センサーで動作を感知したりできるIoT。そうした機器を使えば、クライアントの上下肢の動き・細かな重心の変化などを自動でデータ化することができます。クライアントの歩行状態を肉眼で捉える必要がないため、専門的な知識・経験が少ない医療介護従事者でも手軽に歩行分析がおこなえます。

②クライアントの負担が少ない
肉眼でおこなう従来の歩行分析は、クライアントの歩行を何度も観察する必要があるため、ご本人からしても心身の負担が大きくなるものです。デジタルカメラで撮影して歩行分析をおこなうにしても、他の人が映らないように配慮したり、光のあたり具合を調整したりと。うまく撮影するために時間と場所を選ぶということになれば、クライアントに負担感を与えてしまうでしょう。
IoTは、時間や場所を選ばず使用できるのもメリットです。もちろん、機器により仕様が変わってきますが、例えば、人体にセンサーを身につけるタイプのものであれば、どのような環境下であっても、歩行に関する必要なデータを一度の測定で収集することができます。

③クライアントにフィードバックがしやすい
IoTを活用した歩行分析は、タブレットやスマートフォン・パソコンなどのモニターで歩行分析の結果を見ることができます。足の振り方はどうか、足首の角度はどのくらいか、もう少し効率的に歩くにはどうすべきかなど。医療介護従事者はもちろん、クライアント自身が分析結果を目で見て理解することができるので、ご本人と目標を共有したり、リハビリのモチベーションアップにつなげたりしやすいです。

歩行分析ができるIoT機器の種類

一口に「IoT」と言っても、歩行分析ができる機器にはさまざまなタイプがあります。つづいては、歩行分析ができる代表的なIoTの種類とそれぞれの特徴を紹介します。

①インソールタイプ
センサーを搭載した専用の中敷きを靴のなかに入れ、クライアントの歩行時の姿勢や動き・歩幅といった歩容を分析するインソールタイプ。こちらのタイプは、自立から要支援レベルの高齢者・障がい者を中心に、比較的活動量の多い方の歩容を評価したり、訓練プログラムを立案したりするのに向いています。センサーが感知した情報は、専用アプリをダウンロードしたスマートフォンやタブレットで確認することができます。

②ウェアラブルタイプ
ウェアラブルタイプは、クライアントの体にセンサーをつけて歩行分析をおこなうIoT機器です。上下肢や体幹などにセンサー取り付けることで、関節角度や歩行速度・左右の足の非対称性・つま先の上げ下げなどを自動的に評価。機器により得られる情報や身につける部位は変わってきますが、自立から要介護レベルの高齢者・障がい者に使用しやすく、さまざまな商品が開発・販売されています。

③3次元動作分析装置
3次元動作分析装置は、肩や肘・手首・骨盤・大腿部といった人体各所に関節の動きを感知する反射マーカーと呼ばれる目印をつけ、専用のカメラでクライアントの動作を計測・解析する機器です。クライアントの頭部から足先まで、歩行中に関節の向きや位置がどのような状態になっているのか、より正確に分析するために使用されます。3次元動作分析装置は、ほかのIoT機器にくられると費用や設備が大がかりになるため、主にリハビリの専門病院や研究機関などで使われています。

④歩行車タイプ
こちらのタイプは、介護施設や病院などで使用される歩行車の形をしたIoT機器です。ほかのIoT機器と異なり、歩行分析とトレーニングを併用。AIが内蔵されており、クライアントが機器を押して歩くだけで、AIが歩行速度やバランスなどを評価・分析します。ご本人に最適な負荷をかけて、歩行状態を評価しながら同時に訓練もおこなえる仕様となっています。

歩行分析用のIoT機器を選ぶポイント

歩行分析に活用できるIoT機器にはさまざまな種類があるとわかったところで、どのような機器を選べば良いのか、疑問を抱く方もいますよね。ここからは、事業所でIoTを活用するために、機器を選ぶポイントを確認してみましょう。

①クライアントの介護度や歩行ニーズに合わせる
介護施設・病院など、事業所の役割が違えば、クライアントの機能レベルや要望が大きく変わってきます。IoTを導入する時には、クライアントの介護度や歩行に対するニーズを踏まえた上で、機器を選ぶことが大切です。もしもクライアントに合わない機器を選んでしまうと、「コストをかけたのに効果的な歩行分析がおこなえない」という事態にもなりかねません。例えば、自立から要支援レベルのクライアントが多いのであれば歩容をチェックしやすいインソールタイプ、費用をおさえつつ要介護度が高いクライアントの歩行分析もしたいならウェアラブルタイプを選ぶといったように。どのような歩行評価・訓練を求めているか?クライアントの層をしっかりと見極めた上で、事業所のサービスに合うIoT機器を選びましょう。

②スタッフの使い勝手が良いものを選ぶ
歩行分析にIoTを使用する時は、カメラやセンサー・スマートフォン・タブレットといった機器の操作を伴います。機器のなかには、設置に時間がかかったり、使用手順が複雑であったりする商品もあります。どんなに優れた機器であっても、現場のスタッフにとって使い勝手が良くなければ、継続的に活用するのは難しいものです。IoT機器を選ぶには、現場のスタッフがルーチンワークとして使用できる利便性も重要です。

IoT機器を活用し、誰もが手軽に客観的な歩行分析を

医療介護施設で頻繁におこなわれている歩行訓練ですが、その評価方法は肉眼によるケースも少なくありません。専門的な知識や経験がなければ、正確な歩行分析が難しかったり、クライアントに過度な負担をかけてしまったりすることもあるでしょう。
IoTを活用すれば、専門的な知識や経験が少なくても、クライアントの歩行状態を客観的に評価することができます。得られたデータをクライアントと共有すれば、ご本人はもちろん、医療介護従事者側も歩行状態を理解しやすいです。
近年では、さまざまな種類のIoT機器が販売されています。クライアントの層をしっかりと見極めた上で、自分の事業所に合うIoT機器を選びましょう。