デイサービスを開業するには、国や都道府県・市町村が指定した基準をクリアする必要があります。基準をクリアできなければ、介護事業者として、新規指定を受けられません。また、新規指定を受ける時は、書類を申請したり、開業費用を準備したりと管理者として理解しておくべきこと多いです。
そこで、ベストリハでは、デイサービスを開業するための準備を2回に分けて紹介します。第1回目は、「デイサービスの指定基準や申請方法」についてお伝えします。
デイサービスとは
デイサービス(通所介護)は、介護を必要とする方ができる限り自立した生活を送れるように、日常生活の支援や機能訓練などのサービスを提供する介護施設です。デイサービスは、対象となる利用者別に次のように分類されます。
名称 | 対象となる利用者 |
通所介護 | 要介護1~5の認定を受けた方 |
介護予防通所介護 | 要支援1・2の認定を受けた方 |
認知症対応型通所介護 | 要介護1~5の認定を受けた方で、認知症の症状がある方 |
介護予防認知症対応型通所介護 | 要支援1・2の認定を受けた方で、認知症の症状がある方 |
また、近年デイサービスでは、リハビリの体制を充実させたり、入浴サービスに専念したりと、各事業所で独自の特色づくりがおこなわれており、「リハビリ特化型デイサービス」や「入浴特化型デイサービス」といった、特定の分野に強みを持つ事業所が増えています。
デイサービスの開業に必要な指定基準
デイサービスを開業するには、まずは、国が定めた「人員基準」と「設備基準」を守る必要があります。
人員基準
「人員基準」とは、利用者の生活機能の維持・向上を図ったり、家族の身体的・精神的負担を軽減したりするために、介護施設に配置が義務付けられた職員数の決まりです。デイサービスでは、次に挙げる職員の配置が義務付けられています。
①管理者
管理者は、デイサービスにおける介護サービスを適切に運用するために、職員のマネジメントや収支管理、行政機関の報告などの業務を担う人材です。デイサービスでは、管理者を1名配置することが義務付けられています。
管理者は、原則として常勤専従ですが、デイサービスの介護業務に従事したり、同一敷地内にある他の事業所の業務をおこなったりするなど、管理者の業務に支障がない場合は兼務が許可されています。なお、デイサービスの管理者は、特別な資格を必要とせず誰でもなることができます。
②看護職員
デイサービスでは、利用者の健康管理を主な目的に、看護師または准看護師の配置が義務付けられています。
看護職員は、専従(デイサービスのサービス提供時間帯に、看護業務以外の職務に従事しないこと)で1名以上の確保が必要です。ただし、デイサービスと直接雇用契約を結んでいる看護職員であれば、常勤・非常勤どちらでも問題ありません。
③機能訓練指導員
機能訓練指導員とは、利用者の心身機能や生活能力を維持・向上するために、機能訓練を計画・指導する専門職です。デイサービスでは、機能訓練指導員1名以上の確保が必要です。
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師・看護師・准看護師のいずれかの有資格者が、機能訓練指導員として働くことができます。
④介護職員
デイサービスにおけるケアやレクリエーションなどを担当するのが、介護職員です。デイサービスの介護職員は、特別な資格を必要とせず、誰でもなることができます。
利用者定員が15名以下のデイサービスでは、1名以上の介護職員(専従)の配置が義務づけられています。
利用者定員が16名以上のデイサービスでは、「(利用者数-15)÷5+1」の計算式で算出された数の介護職員(専従)が必要です。例えば、利用者定員20名のデイサービスでは、「(20-15)÷5+1」となり、2名以上の介護職員が必要となります。
⑤生活相談員
生活相談員は、利用者や家族から相談を受けたり、他施設との連携を図ったりする専門職です。社会福祉士や精神保健福祉士の有資格者が、生活相談員として働くことができます。デイサービスを開業するには、専従の生活相談員を1名以上配置が必要です。
※デイサービスの介護職員と生活相談員
デイサービスでは、介護職員または生活相談員のうち、1名以上が常勤であれば運営可能です。例えば、介護職員に常勤職員がいる場合、生活相談員は非常勤職員でも問題ありません。
設備基準
「設備基準」とは、食事や運動をしたり、利用者のプライバシーを守ったりするために、介護施設内に設けることが義務付けられた設備の決まりです。デイサービスを開業するには、次に挙げる設備が必要です。
①食堂・機能訓練室
デイサービスでは、食堂と機能訓練室の合計面積が、利用者ひとりにつき3㎡以上が必要です。例えば、利用定員が10名のデイサービスであれば、「3㎡×10名」という計算式になり、食堂と機能訓練室の合計面積は30㎡以上確保しなければなりません。なお、食堂と機能訓練室は、食事や機能訓練に支障がなければ同一の場所で設置が可能です。
②静養室
静養室は、利用者が心身を休めることができるように、適当な広さを確保します。自治体によっては、ベッドの設置を指導しているケースもあります。
③相談室
相談室は、利用者や家族等の相談内容を漏えいしないように、専用の個室、またはパーテーションやカーテンといった遮へい物で区画されたスペースが必要です。
④事務室
事務室は、広さの規定がありません。ただし、デイサービスの職員が事務処理をしたり、パソコンやプリンター等の事務用品を設置したりできる程度の広さが必要です。
⑤その他
以上のほかに、デイサービスを開業するには消防・トイレなどの設備が必要です。また、デイサービスで食事を調理したり、入浴介助をしたりする場合は、それぞれ厨房、浴室・脱衣所も設置します。トイレや浴室・脱衣所は国で定められた基準がありませんが、車いすユーザーが使用することも考えると、方向転換したり介護したりしやすい広さを確保しましょう。さらに、体調が急変した時を想定して、「呼び出しボタン」を設置しておくと安心です。
<h3>運営基準</h3>
「運営基準」とは、デイサービスを適切に運営するために定められている決まりです。以下が、デイサービスの主な運営基準です。
①サービス提供全般に関すること
デイサービスの事業者は、適切なサービス提供をおこなうために事業の目的や運営の方針・職員数・利用定員などを取り決め、それを「運営規程」として定めることが義務づけられています。また、介護サービスを提供するにあたり、利用者一人ひとりに目標を設定し、計画的にサービスを実施したり、サービスの効果判定をしたりするように決められています。
②利用料に関すること
法定代理受領サービス(デイサービスが利用者に代わって保険給付を受ける方法により提供されたサービス)を提供した際には、利用者からサービス利用料の一部を受け取ることができます。なお、法定代理受領サービス以外にも、次のような場合には利用者から利用料を受け取ることができます。
・送迎費用(通常の事業の実施地域以外のエリアにお住まいの利用者に対しておこなう送迎にかかる費用)
・通常のサービス時間帯を超過した分の利用料
・食事代
・おむつ代
・日常生活で必要となる物品費用
③職員の勤務体制に関すること
看護師や介護福祉士など、デイサービスに勤務する職員のスキル向上のために、研修機会を確保することも運営基準として定められています。
④書類に関すること
デイサービスの運営基準では、心身状況や環境面などを踏まえた上で利用者一人ひとりの目標を設定するとともに、通所介護計画書を作成し、それを利用者本人や家族に同意を得るように取り決められています。また、デイサービスで過ごす利用者の様子を記録に残し、通所介護計画書も含めて一定期間保存することも義務づけられています。
以上のほかにも、デイサービスには、「事故や災害時の対応」「衛生管理」「地域コミュニティとの連携」といった運営基準があります。運営基準の詳細は、厚生労働省のホームページで確認することができます。デイサービスを開業する前には、運営基準の詳細もしっかりとチェックしておきましょう。
都道府県や市町村が条例で定めた基準もある
都道府県や市町村では、国の基準に加え、さらに詳細なデイサービスの基準を設けている自治体があります。例えば、埼玉県では、フロアや通路等にある段差を解消するよう指導しています。また、愛知県では、来訪者がサービス提供時間帯に食堂や機能訓練室を通る場合、通路を設けるように基準を設定しています。
このように、デイサービスの基準は、自治体ごとに違いがあるのも特徴です。デイサービスを開業するのであれば、自身が開業を検討している自治体の指定基準もチェックしましょう。
開業に必要な書類
デイサービスを開業するには、開業を予定している市区町村に申請が必要です。申請書類には、「指定申請書」「運営規程」「事業所の平面図」「職員の勤務体制および勤務形態一覧表」といったものがあります。
各市区町村では、デイサービスの新規事業者向けに、必要書類のデータファイル一式やチェックリストなどを設けています。書類を準備する際は、こちらも確認しましょう。
また、自身で書類の作成が難しい場合は、社会保険労務士に依頼するのもひとつの方法です。社会保険労務士は、労働や社会保険に関連する法令に基づき、公的書類を作成する専門職です。デイサービスの開業準備で忙しかったり、書類の作成に自信がなかったりする場合は、社会保険労務士にサポートしてもらうことをおすすめします。
事前相談・研修を設けている自治体もある
デイサービスの開業に伴い、事前相談を設けている自治体もあります。事前相談では、デイサービスの人員や設備基準といった開業に必要なさまざまな内容を相談することができます。また、東京都や大阪府などの大都市では、デイサービスの新規指定に伴い、事前研修の受講を必須としています。
自治体により、書類以外にも、デイサービスの新規指定に関する体制が違うことに注意しましょう。
デイサービスを開業するまでの流れ
では、実際にデイサービスを開業するには、どのような手順で進めれば良いのでしょか?ここからは、開業までの流れを紹介します。
① 事前相談・事前研修
デイサービスの開業に伴う事前相談や事前研修を設けている都道府県・市町村では、まずは、自治体の窓口に相談したり、新規指定のための研修会に参加したりします。
なお、民間企業のなかには、デイサービスの新規開設者向けに経営セミナーを開催している会社もあります。事業計画を立案するためにプロの経営セミナーへの参加を検討している方は、事前相談や事前研修の段階で参加すると良いでしょう。
② 法人格の取得
デイサービスを経営するには、営利法人(株式会社・合同会社など)や社会福祉法人、NPOなどの法人を設立する必要があります。それぞれの要件を満たした上で、法人格を取得しましょう。
【参考】デイサービスを開設している法人の割合
(参照元 厚生労働省|令和2年介護サービス施設・事業所調査の概況)
厚生労働省の「介護サービス施設・事業所調査の概況(令和)」によれば、デイサービスを開設している法人は、営利法人(会社)が51.8%(12,477事業所)ともっとも多く、次いで社会福祉法人が36.3%(8,743事業所)、医療法人が7.6%(1,831事業所)となっています。
③ 事業所の賃貸借契約、人員の確保、備品の準備
自治体にデイサービスの新規指定申請をおこなう前に、介護サービスを提供するために最低限必要となる建物・人員・備品を整えます。
建物は、デイサービスの設備基準を遵守し、必要に応じてレイアウトを変更するなどの内装工事をおこないます。人員は、ハローワークや求人情報サイトに登録し募集するのが一般的です。備品は、電話やパソコン・机・テーブル・イスなど、デイサービスの業務・サービスに必要なものを各種店舗またはインターネット通販などで買いそろえます。
④ 新規指定申請
自身がデイサービスの開設を希望する自治体に、必要書類を提出します。書類の書式は、デイサービスを開業する自治体ごとに決められています。自治体のホームページをチェックし、必要書類を確認するとともに、書式をダウンロードして使いましょう。
⑤ 書類審査
提出した書類を自治体がチェックします。書類に記載不備や不足がある場合は、訂正後、再提出が必要になります。
⑥ 現地確認
自治体の職員が、実際にデイサービス開設予定地を訪問し、設備や備品といった環境を調査します。
⑦ 新規指定
書類が受理され、現地確認にも問題がなければ、デイサービスの指定事業者として決定されます。
⑧ 開業準備
重要事項説明書をはじめ、デイサービスの運営に必要な書類の書式を作成します。また、介護ソフトを導入したり、職員を採用したり、介護サービスを提供するための環境を整えます。
⑨ 運営開始
以上が、デイサービス開業までの一連の流れになります。
<h2>しっかりと準備した上で、新規指定申請を</h2>
デイサービスの開業は、いろいろな基準があったり必要書類が多かったりして、一連の流れが複雑です。何らかの不備があると、開業時期が遅くなり、家賃等の維持費が余計にかかってしまうとも限りません。しっかりと準備した上で、新規指定申請に臨みましょう。
さて、デイサービスを開業するとなれば、そのための資金が必要です。開業には、どのくらいの資金が必要になるのでしょうか?次回は、デイサービスの開業に向けて必要となる資金や資金の調達方法についてお伝えします。