令和6年度介護報酬改定に向けて介護事業所が準備しておくべきこと

コラム

生労働省の介護給付費分科会では、令和6年度の介護報酬改定に向け、さまざまな議論が進められています。令和5年1月16日には、本年最初の介護給付費分科会がオンラインで開催されました。
介護報酬改定は、介護施設のサービス運営に大きく影響する重要事項です。管理者としては、今後の動向が気になるところでしょう。
そこで今回は、介護給付費分科会で議論されている内容を紹介するともに、次期改定に向けて介護事業所が準備しておくべき事項をお伝えします。

令和3年度介護報酬改定における5つの検討課題

厚生労働省は、令和3年度の介護報酬改定を踏まえ、今後の検討課題に5つの事柄を挙げていました。すなわち、「①感染症や災害への対応力強化」「②地域包括ケアシステムの推進」「③自立支援・重度化防止の取り組みの推進」「④介護人材の確保・介護現場の革新」「⑤制度の安定性・持続可能性の確保、その他」です。
令和5年1月現在、介護給付費分科会では、令和6年度の介護報酬改定に向け、これら5つの事柄の効果検証を目的に全国的な調査が予定されています。

令和6年度介護報酬改定に向け、本年度に調査が予定されていること

令和3年度の介護報酬改定における課題を踏まえ、次期改定に向け、本年度は以下の6つが調査項目に挙げられています。

①業務継続の取り組みとICTの活用状況

  • 業務継続計画(BCP)の策定をはじめ、感染症や災害に対応できる体制づくりの状況
  • 会議、実務等におけるICTの活用状況

②介護老人保健施設と介護医療院におけるサービス提供実態

  • 在宅復帰を見据えた、介護老人保健施設の加算取得・サービス提供等の状況
  • 介護医療院のサービス提供状況

③個室ユニット型施設の整備・運営状況

  • 個室ユニット型施設(特別養護老人ホーム等)におけるサービス提供や人材育成等の状況

④LIFEの活用状況とADL維持等加算の実態把握

  • 科学的介護情報システム(LIFE)導入の有無、フィードバックの活用状況
  • ADL維持等加算を拡充したことによる影響

⑤認知症グループホームの3ユニット2人夜勤体制の状況

  • 3ユニット2人夜勤体制を導入したことによりサービスへの影響

⑥認知症介護基礎研修受講義務付けの効果

  • 認知症介護基礎研修受講の実態調査とその効果

以上が、次期改定に向けた、令和5年度の調査予定項目です。各調査項目の詳細は、介護給付費分科会の「令和3年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査(令和5年度調査)の実施内容について(案)」で、確認することができます。

介護事業者が準備しておくべきこと

では、介護事業者は、令和6年度の介護報酬改定に向けてどのようなことを準備しておけば良いのでしょうか?ここからは、次期改定に向けて介護事業者が準備しておくべき事項をお伝えします。

業務継続計画(BCP)の策定と運用

令和6年度4月1日より、介護事業所にはBCPの策定が義務付けられています。これまでは経過措置がありましたが、今後はBCPを策定し、介護現場において感染症や災害発生に対応できるように研修・シミュレーションを実施しなければなりません。
なお、介護事業所におけるBCP策定は、厚生労働省がガイドラインを作成しています。また、国や自治体では、BCP策定に関する研修もおこなっています。
こうしたガイドラインや研修も活用し、感染症や災害発生に対応できる体制づくりをしていきましょう。

現場の効率アップに向けたICT活用

厚生労働省は、以前から介護現場におけるICT活用を推進しています。令和6年度の介護報酬改定では、より一層のICT活用が推進される見込みです。介護人材確保の問題もあり、ICT活用によるマンパワー確保や介護職員の働きやすさ向上が期待されています。
介護事業所においては、現場のニーズに合ったICTを積極的に導入し、業務の効率化を図っていく必要があります。特に、各種会議や記録・情報連絡などの業務では、ICTを導入することにより業務の効率化が図りやすいでしょう。
ICTを導入する場合、自治体から補助金を受給できるケースもあります。令和5年度分のICT補助金については、管轄する自治体のホームページをチェックしてみましょう。

在宅復帰を見据えた積極的なサービスの提供

令和3年度の介護報酬改定では、介護老人保健施設における在宅復帰・在宅療養支援機能の評価充実が図られました。令和5年度にはその実態調査が予定されており、今後もますます在宅復帰に向けたサービスの充実が求められるでしょう。
全国老人保健施設協会の調査では、在宅復帰を阻害する要因としてリハビリの効果があがらなかったり、家族の理解が得られなかったりするケースが挙げられていました(平成30年)。そうしたケースであれば、例えば自宅を想定した活動面のリハビリを増やしたり、家族への説明を工夫したりすることで、在宅復帰を後押しできることも少なくありません。
在宅復帰を阻害する要因は何か?自施設の課題を分析して、具体的な阻害要因にスポットをあてたサービス体制の転換が必要です。

介護サービスの質を維持する労働力の確保

令和3年度の介護報酬改定では、個室ユニット型施設や認知症グループホームにおけるユニットの定員や夜勤職員体制が緩和されました。日勤・夜勤ともに現場で求められる人員数が減れば、採用の負担は少なくなりますが、介護サービスの質が下がる可能性も出てきます。
介護サービスの質を維持するには、①マンパワーを確保するか、②少ないマンパワーで現場を効率的にまわるかしなければなりません。①に関しては、パートやアルバイトを採用したり、シニア層や外国人職員を受け入れたりと、人材確保の工夫が必要です。②に関しては、社内の人材教育に力を入れるほか、介護ロボット等を活用する方法もあります。
いずれにしても、利用者に適切なサービスを提供し続けるためには、労働力の確保が課題となります。

科学的データに基づく介護サービスの展開

福祉医療機構の調査によれば、LIFEの利用状況は、利用申請予定までを含めると施設形態を問わず60%を上回っています。今後は、フィードバックを活用し、科学的根拠に基づく介護サービスの提供が求められます。ただし、いまのところ、LIFEのフィードバックは各事業所に活用方法が委ねられているのが現状です。
『PDCA の推進及びケアの向上を図る観点から、LIFE へ提出した利用者の状態の評価結果等の情報等を活用することとしている。具体的な活用方法については、LIFE から今後提供される事業所単位・利用者単位のフィードバック票を活用する他、利用者の状態の評価結果を踏まえ、各施設において検討を行い、ケアの提供に役立てる等、様々な方法が考えられる。』 (参照元 厚生労働省|LIFEの入力方法に関するQ&A

そのため、各事業所では、LIFEやフィードバックをどのように活用していくか、検討を続けていく必要があります。

認知症介護基礎研修受講の推進

3年間の経過措置期間を経て、令和6年4月1日から認知症介護基礎研修受講が義務化されます。
介護事業者は、医療や福祉関係の資格を持たない職員に研修を受講してもらう必要があります。特に、介護以外の業界で働いていた方は、認知症ケアのノウハウを学んだ経験が全くない方も少なくありません。すべての職員が認知症の正しい知識を持ってケアに携われるように、受講もれに注意しましょう。
なお、認知症介護基礎研修受講は、学校で認知症に係わる科目を受講しているなど、一部対象外となる方もいます。詳しくは、以下の通達をご参考ください。

令和3年3月26日 厚生労働省老健局|令和3年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.3)」の送付について

最新の情報をチェックし、円滑な事業運営を

今回は、令和5年1月16日に開催された介護給付費分科会の内容を紹介し、介護事業として、次期報酬改定に向けて準備しておくべきことをお伝えしました。
今後も、介護報酬改定について調査や議論が進んでいきます。改定後も、円滑な事業運営が継続できるように、最新の情報をチェックしていきましょう。

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