都道府県や市町村では、介護給付の適性化やサービスの質の確保などを目的に、定期的に介護保険施設の運営指導(実地指導)を行っています。著しい不正や違反があった場合は、運営指導から監査に移行し、指定の取消等の処分になるケースもあります。
デイサービスの運営指導では、どのようなところをチェックされるのでしょうか?ここでは、運営指導の目的や方針を説明するとともに、デイサービスにおける確認項目・文書についてお伝えします。
運営指導(実地指導)とは?
運営指導とは、要介護者の尊厳の保持や自立した生活を支援するために、適切なサービス提供が行われているか、都道府県や市町村が確認・指導する手続きのことです。従来、運営指導は「実地指導」と呼ばれていましたが、実地ではなくオンラインで行うケースもあることから、令和4年3月に「運営指導」に名称が変更されました。
運営指導で実施する指導には、以下の3つがあります。
①介護サービスの実施状況指導
②最低基準等運営体制指導
③報酬請求指導
いずれの指導も実地が原則ですが、②最低基準等運営体制指導と③報酬請求指導についてはオンラインで行うことも可能となっています。
運営指導と監査の違い
運営指導と混同しやすいものに「監査」があります。運営指導と監査はどちらも行政により行われますが、運営指導が適切なサービス提供が行われているか定期的にチェックするのに対し、監査は不正が疑われる場合に行わる措置です。
「監査が入る」と介護事業所の実地検査が行われ、改善報告書の提出、改善勧告、改善命令、指定の取消などの措置が講じられます。
なお、運営指導においても、著しい違反や不正が認められれば監査に移行する場合もあるので、普段からルールに基づき適切なサービスを提供できるよう、体制を整えておくことが大切です。
(参照元 厚生労働省|介護保険施設等運営指導マニュアル)
運営指導(実地指導)の内容・頻度
運営指導で実施する指導は、「介護サービスの実施状況指導」「最低基準等運営体制指導」「報酬請求指導」です。それぞれの指導内容は、次の通りです。
①介護サービスの実施状況指導
介護サービスの実施状況指導は、主に利用者に対するサービスの質を確認するための指導です。確認項目・確認文書のうち、個別サービスの質を確認する事項について実地で確認し、必要な指導が行われます。
②最低基準等運営体制指導
最低基準等運営体制指導は、サービス種別ごとに定められた基準などを遵守しているか、運営体制を確認する指導です。確認項目・確認文書のうち、個別サービスの質を確保するための体制に関することについて確認し、必要な指導が行われます。
③報酬請求指導
報酬請求指導は、不正請求の防止と制度管理の適正化を目的に行われます。介護報酬の基準に基づき、適正な事務処理やサービスの実施を支援することで、サービスの質の確保やよりよいケアの実現を目指しています。
デイサービスでは、原則、指定の有効期間内に少なくとも1回以上、運営指導が行われます。運営指導実施予定日の1ヵ月前までに通知が届き、準備すべき書類や当日の流れなどが伝えられます。
(参照元 介護保険施設等の指導監督について(通知)の送付について)
デイサービスにおける確認項目・確認文書
厚生労働省が作成している「介護保険施設等運営指導マニュアル(令和4年3月)」には、別添資料として、運営指導における確認項目・確認文書が掲載されています。ここでは、デイサービス(通所介護)における確認項目・確認文書を紹介します。
個別サービスの質に関する事項 | |||
確認項目 | 確認文書 | ||
設備 | 設備及び備品等 (第95条) | ・平面図に合致しているか【目視】
・使用目的に沿って使われているか【目視】 |
平面図 |
運営 | 内容及び手続の説明 及び同意(第8条) | ・利用申込者又はその家族への説明と同意の手続きを取っているか
・重要事項説明書の内容に不備等はないか |
・重要事項説明書(利用申込者又は家族の同意があったことがわかるもの)
・利用契約書 |
心身の状況等の把握
(第13条) |
・サービス担当者会議等に参加し、利用者の心身の状況把握に努めているか | ・サービス担当者会議の記録 | |
居宅介護支援事業者等との連携
(第14条) |
・サービス担当者会議等を通じて介護支援専門員や他サービスと連携しているか | ・サービス担当者会議の記録 | |
居宅サービス計画に沿ったサービスの提供
(第16条) |
・居宅サービス計画に沿ったサービスが提供されているか | ・居宅サービス計画
・通所介護計画(利用者及び家族の同意があったことがわかるもの) |
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サービス提供の記録
(第19条) |
・通所介護計画にある目標を達成するための具体的なサービスの内容が記載されているか
・日々のサービスについて、具体的な内容や利用者の心身の状況等を記録しているか ・送迎が適切に行われているか |
・サービス提供記録
・業務日誌 ・送迎記録 |
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通所介護計画の作成
(第99条) |
・居宅サービス計画に基づいて通所介護計画 が立てられているか
・利用者の心身の状況、希望および環境を踏まえて通所介護計画が立てられているか ・サービスの具体的内容、時間、日程等が明 らかになっているか ・利用者又はその家族への説明・同意・交付 は行われているか ・目標の達成状況は記録されているか ・達成状況に基づき、新たな通所介護計画が立てられているか |
・居宅サービス計画
・通所介護計画(利用者又は家族の同意があったことがわかるもの) ・アセスメントシート ・モニタリングシート |
個別サービスの質を確保するための体制に関する事項 | |||
確認項目 | 確認文書 | ||
人員 | 従業者の員数
(第93条) |
・利用者に対し、従業者の員数は適切であるか
・必要な専門職が揃っているか ・専門職は必要な資格を有しているか |
・勤務実績表/タイムカード
・勤務体制一覧表 ・従業者の資格証 |
管理者
(第94条) |
・管理者は常勤専従か、他の職務を兼務している場合、兼務体制は適切か | ・管理者の雇用形態が分かる文書
・管理者の勤務実績表/タイムカード |
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運営 | 受給資格等の確認
(第11条) |
・被保険者資格、要介護認定の有無、要介 護認定の有効期限を確認しているか | ・介護保険番号、有効 期限等を確認している 記録等 |
利用料等の受領
(第96条) |
・利用者からの費用徴収は適切に行われているか
・領収書を発行しているか ・医療費控除の記載は適切か |
・請求書
・領収書 |
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緊急時等の対応
(第27条) |
・緊急時対応マニュアル等が整備されているか
・緊急事態が発生した場合、速やかに主治の医師に連絡しているか |
・緊急時対応マニュアル
・サービス提供記録 |
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運営規程
(第100条) |
・運営における以下の重要事項について定めているか
1.事業の目的及び運営の方針 2.従業者の職種、員数及び職務の内容 3.営業日及び営業時間 4.指定通所介護の利用定員 5.指定通所介護の内容及び利用料その他 の費用の額 6.通常の事業の実施地域 7.サービス利用に当たっての留意事項 8.緊急時等における対応方法 9.非常災害対策 10.虐待の防止のための措置に関する事項 11.その他運営に関する重要事項 |
・運営規程 | |
勤務体制の確保等
(第101条) |
・サービス提供は事業所の従業者によって行われているか
・資質向上のために研修の機会を確保しているか ・勤務表の記載内容は適切か ・認知症介護に係る基礎的な研修を受講さ せるため必要な措置を講じているか ・性的言動、優越的な関係を背景とした言動による就業環境が害されることの防止に向けた方針の明確化等の措置を講じているか |
・雇用の形態(常勤・ 非常勤)がわかる文書
・研修計画、実施記録 ・勤務実績表(勤務実績が確認できるもの) ・方針、相談記録 |
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業務継続計画の策定等
(第30条の2) |
・感染症、非常災害発生時のサービスの継続実施及び早期の業務再開の計画(業務継 続計画)の策定及び必要な措置を講じているか。
・従業者に対する計画の周知、研修及び訓 練を実施しているか ・計画の見直しを行っているか |
・業務継続計画
・研修及び訓練計画、実施記録 |
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定員の遵守
(第102条) |
・利用定員を上回っていないか | ・業務日誌
・国保連への請求書控え |
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非常災害対策
(第103条) |
・非常災害(火災、風水害、地震等)対応に係るマニュアルがあるか
・非常災害時の連絡網等は用意されているか ・防火管理に関する責任者を定めているか ・避難・救出等の訓練を実施しているか |
・非常災害時対応マニュアル(対応計画)
・運営規程・避難・救出等訓練の記録 ・通報、連絡体制 ・消防署への届出 |
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衛生管理等
(第104条) |
・感染症及び食中毒の予防及びまん延の防 止のための対策を講じているか
・必要に応じて衛生管理について、保健所の助言、指導を求め、密接な連携を保っているか ・感染症又は食中毒の予防及びまん延の防 止のための対策を検討する委員会を6 か月に1 回開催しているか |
・感染症及び食中毒の予防及びまん延防止のための対策を検討する委員会名簿、委員会の記録
・感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための指針 ・感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための研修の記録及び訓練の記録 |
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秘密保持等
(第33条) |
・個人情報の利用に当たり、利用者(利用者の情報)及び家族(利用者家族の情報)から同意を得ているか
・退職者を含む、従業者が利用者の秘密を保持することを誓約しているか |
・個人情報同意書
・従業者の秘密保持誓約書 |
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広告
(第34条) |
・広告は虚偽又は誇大となっていないか | ・パンフレット/チラシ | |
苦情処理
(第36条) |
・苦情受付の窓口があるか
・苦情の受付、内容等を記録、保管しているか ・苦情の内容を踏まえたサービスの質向上の取組を行っているか |
・苦情の受付簿
・苦情者への対応記録 ・苦情対応マニュアル |
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事故発生時の対応
(第104条 の3) |
・事故が発生した場合の対応方法は定まっているか
・市町村、家族、居宅介護支援事業者等に 報告しているか ・事故状況、対応経過が記録されているか ・損害賠償すべき事故が発生した場合に、速やかに賠償を行うための対策を講じているか ・再発防止のための取組を行っているか |
・事故対応マニュアル
・市町村、家族、居宅介護支援事業者等への報告記録 ・再発防止策の検討の記録 ・ヒヤリハットの記録 |
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虐待の防止
(第37条の2) |
・虐待の発生
・再発防止のための対策を検討する委員会を定期的に開催し、従業者に周知しているか ・虐待の発生・再発防止の指針を整備しているか ・従業者に対して虐待の発生・再発防止の研修及び訓練を実施しているか ・上記の措置を適切に実施するための担当者を設置しているか |
・委員会の開催記録
・虐待の発生・再発防止の指針 ・研修及び訓練計画、実施記録 ・担当者を設置したことが分かる文書 |
(参照元 厚生労働省|介護保険施設等運営指導マニュアル 別添1 確認項目及び確認事項)
運営指導を意識しつつ、日頃から適切なサービス提供を
デイサービスでは、日々のケア業務が忙しく、書類業務をはじめ適切な運営体制を維持するのが大変なケースも少なくありません。基準やルールに沿わないやり方で業務が行われていたり、書類にミスがあったりすることもあるでしょう。
運営指導の通知が届いてから運営体制を整備・見直しても、すべてを適切な状態にするのは難しいものです。管理者としては、運営指導の確認事項や確認文書をチェックし、普段から著しい指導を受けない体制づくりを心がけておくことが大切です。
日頃からしっかり準備した上で、運営指導に臨みましょう。
ケアの質向上と現場の働きやすさのために
デイサービス業界では、利用者の自立支援・重度化防止を目指した質の高いサービス提供とともに、人材の確保・生産性の向上といった課題が山積しています。事業者には、利用者にも介護従事者にも選ばれるより良い環境づくりが求められています。
しかしながら、デイサービスの業務は、日々の記録から利用者へのケア・送迎など業務量が多く、煩雑です。また、3年ごとに介護保険制度が改定されるため、それに合わせて体制を変えていく必要もあります。利用者やスタッフのために環境を整えたくても、課題が多く悩まれている方も多いのではないでしょうか。
弊社では、デイサービス向けに介護ソフト「はやまる」を提供しています。介護保険請求に加え、日々の記録・計画書作成・連絡帳・送迎管理・勤怠管理・売上予測管理など、デイサービスの業務全般をカバーする機能を搭載しています。「はやまる」を導入することで、デイサービスの業務全般を効率化でき、日々のケアに集中しやすくなるとともに、現場の働きやすさを向上することが可能です。
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プロフィール
田口 昇平 作業療法士/福祉住環境コーディネーター2級/取材ライター 作業療法士免許取得後、東京都内のリハビリ専門病院や介護施設などに勤務。 2018年よりフリーライターに転身。医療介護従事者への取材をしながら、現場の業務改善や労働環境づくりなど幅広いテーマで執筆。 |