お泊りデイサービスとは、通所介護の利用者に対して、日常生活を送るために必要なケアを夜間・深夜に提供する宿泊サービスのことです。介護保険外のサービスになりますが、自宅で生活する要介護者・家族をサポートする手段として需要が増えています。
管理者のなかには、「お泊りデイサービスを取り入れてみたい」と興味を持たれる方もいるでしょう。ここでは、お泊りデイサービスの概要や運営指針を説明するとともに、サービスの内容やショートステイとの違いについてお伝えします。
お泊りデイサービスとは?
お泊りデイサービスは、要介護高齢者を対象にした介護保険外の宿泊サービスです。夜間における家族の介護負担を減らすなど、緊急または短期間の宿泊ニーズに対応することを目的にサービスが展開されています。
厚生労働省がまとめた「通所介護事業所等の設備を利用した介護保険制度外の宿泊サービスの提供実態等に関する調査研究事業 報告書」によれば、宿泊サービス利用者の属性としては、平均要介護度が通所介護事業所で2.9、認知症対応型通所介護事業所で3.2となっています。また、認知症高齢者の日常生活自立度は、通所介護事業所で「Ⅲa」(17.5%)・「Ⅱb」(13.1%)、認知症対応型通所介護で「Ⅳ」(22.5%)の割合が高い状況です。
このように、お泊りデイサービスは、中等度の要介護度であったり、中重度の認知症を患っていたりする利用者・家族からニーズが高いサービスです。また、夜間における日常生活上のケア全般を行うため、一人暮らしをしている要介護高齢者の利用も少なくありません。
いずれにしても、お泊りデイサービスは、地域で安心して生活するために利用者・家族の暮らしをサポートする、重要な選択肢のひとつと言えるでしょう。
(参照元 厚生労働省|通所介護事業所等の設備を利用した介護保険制度外の宿泊サービスの提供実態等に関する調査研究事業 報告書)
お泊りデイサービスの運営指針
従来のお泊りデイサービスは、自治体が定めた基準に基づきサービスが展開されていました。そのため、自治体や事業者ごとのサービスの質にばらつきが大きく、「利用スペースが十分に確保されていない」「スプリンクラーが設置されていない」といった、いろいろな課題が山積していたのです。
そこで、厚生労働省は、平成27年4月にお泊りデイサービス(介護保険外の宿泊サービス)に関するガイドライン(指針)を定めました。ここからは、ガイドラインで定められた運営指針について、「人員面」「設備面」「運営面」の3つを順に説明します。
人員に関する指針
人員面では、お泊りデイサービスに置くべきスタッフ数および資格について、次のように定められています。事業者としては、昼間の時間帯も含めて、スタッフの人材配置を考えていく必要があります。
スタッフ数および資格 | ・宿泊時間帯に、夜勤スタッフとして介護職員または看護師・准看護士を常時1人以上確保すること。
・食事を提供する場合は、食事介助等に必要なスタッフ数を確保すること。 |
責任者の配置 | ・宿泊サービスに係わるスタッフの中から責任者を決めること。 |
設備に関する指針
設備面では、①利用定員 ②サービスを提供する上で必要な設備および備品などがポイントになります。利用者のプライバシー保護や安全確保などができるよう、適切な運用が求められます。
利用定員 | 宿泊サービスの利用定員は、日中のデイサービスにおける利用定員の半分以下で、最大でも9人以下とすること。 |
必要な設備および備品など | ・宿泊室の定員は1室あたり1人とすること。利用者の希望があれば、1室あたり2人とすることも可能。また、相部屋の場合は、1室あたり4人以下とすること。
・宿泊室の床面積は、1室あたり7.43㎡以上とすること。相部屋の場合は、7.43㎡に相部屋利用者の人数を乗じた面積以上の広さを確保すること。 ・相部屋の場合は、パーテーションや家具などで利用者同士の視線を遮断し、プライバシーを確保すること。特別な場合を除き、男女が同室で宿泊することがないよう配慮すること。 ・消防法や建築基準法等に規定された設備(スプリンクラーや火災報知器等)を設置すること。 |
運営に関する指針
運営面では、各種書類や手続きなどに関する指針が定められています。昼間の時間帯と違い、夜間はスタッフ数が少なくなるので、事故や急変といった緊急時対応がしっかりできるよう体制を作ることが大切です。
利用者への説明と同意 | 宿泊サービスを提供するにあたり、利用者または家族に対して、サービス提供日時やサービス内容といった重要事項を記載した文書を交付し、説明するとともに同意を得ること。 |
宿泊サービスの記録 | 宿泊サービスを提供した際には、サービスの内容や利用者の心身状況などを記録すること。 |
宿泊サービスの提供方針 | ・認知症など、利用者の心身状況を踏まえて、要介護状態の軽減・悪化防止に資するよう日常生活に必要な援助を行うこと。
・利用者、他の利用者等の生命または身体を保護するため緊急かつやむを得ない場合を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為を行ってはならない。以上の行為を行う場合には、その内容や理由等を記録すること。 |
宿泊サービス計画の作成 | ・宿泊サービスを概ね4日以上連続して利用する予定の利用者については、具体的なサービス内容等を記載した宿泊サービス計画を作成すること。4日未満の利用であっても、繰り返し、継続的に利用する予定の利用者についても、宿泊サービス計画を作成すること。
・宿泊サービス計画について、その内容を利用者または家族に説明、同意を得るとともに利用者に交付すること。 |
介護 | ・利用者の心身状況に応じ、自立支援や日常生活の充実に資するよう適切な技術を持って行うこと。 |
食事の提供 | ・栄養や利用者の心身状況・嗜好を考慮するとともに、適切な時間に食事を提供すること。 |
健康面への配慮 | ・必要に応じて、利用者の主治医や居宅介護支援事業者等と連携し、利用者の健康状況に配慮すること。 |
利用者・家族に対する相談・援助 | ・利用者の心身状況や置かれている環境等を的確に把握し、利用者または家族に対し、相談に応じるとともに必要な助言・援助を行うこと。 |
緊急時等の対応 | ・利用者の病状が急変した場合等、速やかに主治医や協力医療機関と連絡をとり、必要な措置を講じること。 |
運営規定 | ・宿泊サービス事業者は、次の重要項目について運営規定を定めること。①事業の目的および運営の方針 ②スタッフの職種、人数および職務の内容 ③サービス提供日およびサービス提供時間 ④利用定員 ⑤宿泊サービスの内容および利用料その他の費用の額 ⑥宿泊サービス利用に当たっての留意事項 ⑦緊急時等における対応方法 ⑧非常災害対策 ⑨その他運営に関する重要事項 |
勤務体制の確保 | ・宿泊サービスに従事するスタッフの勤務体制を定めておくこと。また、サービスの質向上のために、研修機会を確保すること。 |
定員の遵守 | ・運営規定で定めた利用定員を超えて宿泊サービスを提供してはならない。 |
非常災害対策 | ・非常災害に関する具体的な計画を立て、関係機関への通報および地域住民等との連携体制を整備し、定期的にスタッフに周知すること。また、定期的に夜間を想定した避難、救出その他必要な訓練を行うこと。 |
衛生管理 | ・施設の設備、使用する道具などについて衛生的な管理に努めること。 |
掲示 | ・宿泊サービス事業所の見やすい場所に、運営規程の概要、責任者の氏名、宿泊サービス従業者等の勤務の体制、苦情処理の概要、緊急時の避難経路その他の利用申込者のサービスの選択に資すると認められる重要事項を掲示すること。 |
秘密保持等 | ・正当な理由なく、その業務上知り得た利用者又はその家族の秘密を漏らさないこと。 |
広告 | ・介護保険サービスとは別のサービスであることを明記すること。 |
苦情処理 | ・利用者およびその家族からの苦情に迅速かつ適切に対応するために、苦情を受け付けるための窓口を設置する等の必要な措置を講じること。 |
事故発生時の対応 | ・利用者に対する宿泊サービスの提供により事故が発生した場合は、市町村、当該利用者の家族、当該利用者に係る居宅介護支援事業者等に連絡を行うとともに、必要な措置を講じること。 |
宿泊サービス届出 | ・宿泊サービスの内容をサービス提供開始前に通所介護事業者等に係る指定を行った都道府県等に届け出ること。 |
調査への協力等 | ・都道府県および市区町村が行う調査に協力するとともに、指導または助言を受けた場合には必要な改善を行うこと。 |
記録の整備 | ・利用者に関する記録は、その完結日2年間保存すること。 |
(参照元 厚生労働省|指定通所介護事業所等の設備を利用し夜間及び深夜に指定通所介護等以外のサービスを提供する場合の事業の人員、設備及び運営に関する指針について)
お泊りデイサービスのサービス内容
お泊りデイサービスでは、宿泊滞在中の利用者が安全かつ快適に夜間を過ごせるよう、サービスを提供する必要があります。では、どのようなサービスを提供すれば良いのでしょうか?続いては、一般的なお泊りデイサービスのサービス内容を紹介します。
トイレ・排泄介助
排泄の方法としては、主に「トイレ」「ポータブル」「おむつ」があります。利用者の希望があればもちろんですが、活動量を維持したり、生活習慣を守ったりするためには、可能な限り自宅と同じ方法で排泄を行うのが大切です。
とは言え、夜間のトイレ・排泄介助は、スタッフの負担が大きくなりがちです。例えば、利用者一人のトイレ介助に時間がかかると、フロアにスタッフが不在となり、他の利用者の見守り・介助に手が回らなくなるということがよく起こります。
トイレ・排泄介助の負担は、利用者層により大きく違ってきます。介助が負担になっていなか、スタッフに逐一モニタリングしながら体制を整備することが大切です。
食事の提供
お泊りデイサービスでは、夕食と朝食の提供が必要になります。食事の提供方法としては、事業所内でスタッフが調理するのが一般的です。自事業所で調理するのが難しい場合は、配食サービスを利用するなど、食事の提供をアウトソースするのもひとつです。
また、食事の提供は、トイレ・排泄と同じように介助の負担が大きくなる傾向があります。食事を行うのに手添えが必要な利用者が多いなどする場合には、夕食・朝食時間帯のスタッフ増員を検討することも必要です。
緊急時の対応
通常のサービスとは異なりますが、事故や急変があった際には、主治医や協力医療機関に連絡することもサービスの一環です。「利用者が転倒してしまった」「急に座れなくなってしまった」など、介護の現場には事故や急変がつきものです。
特に、夜間は少ないマンパワーで事故や急変に対応することが求められます。利用者の安全を守るとともに、迅速に適切な対応ができるよう、緊急時の体制もしっかり整えておきましょう。
お泊りデイサービスの費用
介護保険外のサービスであるお泊りデイサービスは、利用料金が全額自己負担です。言い換えれば、事業者としては利用料金を自由に設定することが可能です。
厚生労働省がまとめた「厚生労働省|通所介護事業所等の設備を利用した介護保険制度外の宿泊サービスの提供実態等に関する調査研究事業 報告書」によれば、宿泊サービスにおける利用料金は、通所介護事業所で「1,000~2,000円未満」が30.3%、認知症対応型通所介護事業所で「2,000~3,000円未満」が23,0%、「3,000~4,000円未満」が20.7%を占めています。
数千円の自己負担で、ケア付きの宿泊サービスを利用できるとなれば、利用者・家族にとっては心強く思えるかもしれません。しかしながら、利用料を低額に抑えた結果、スタッフに無理を強いて運営しているケースも報告されています。
スタッフの労働条件・環境が悪ければケアの質が低下したり、離職につながったりして、お泊りデイサービスの運営するのが難しくなるでしょう。安定して継続的にお泊りデイサービスを運営していくには、利用者・家族だけでなく、事業者・スタッフが納得できる料金設定にすべきです。
ショートステイとの違いは?
介護施設の宿泊サービスと言えば、「ショートステイ(短期入所生活介護)」が一般的です。ショートステイは、要介護高齢者が一時的に施設入所し、日常生活上のケアを受けるサービスです。お泊りデイサービスとは違い、介護保険が適用され、医師や生活相談員・機能訓練指導員などの専門職も配置されています。
ショートステイは、特別養護老人ホームなどの入所施設で提供されるサービスであるため、利用者の宿泊スペースが広いのも特長です。一方で、ケアプランに組み込む必要があるなど、サービス開始前の手続きが多く、利用できるまでに時間がかかる傾向にあります。
ショートステイに比べると、お泊りデイサービスは運営面のハードルが低く、利用者・家族にとって気軽に利用しやすいサービスです。
利用ニーズと事業所の体制を踏まえた上で運営開始を
お泊りデイサービスは利用者・家族の暮らしをサポートするサービスですが、運営を開始するには、①利用ニーズを把握すること ②事業所の体制を整備することが大切です。
自事業所の利用者・家族、あるいは周辺地域の方々から宿泊サービスの利用ニーズがなければ、お泊りデイサービスを開始しても利用者が十分集まらず採算がとれません。「要介護」と一口に言っても、夜間の介助量や介護負担感は家庭ごとに大きく違います。デイサービスに宿泊機能を求めている方がどのくらいいるのか、まずは利用ニーズを把握するところから始めましょう。
また、人材や設備環境を整えなければお泊りデイサービスを適切に運用することはできません。夜勤スタッフとして介護職員または看護職員を1人以上確保するとなれば、新たに人材採用をする必要も出てくるでしょう。介助量の多い利用者が多数占めるのであれば、それに応じて、十分なサービスを行き届かせるためにスタッフ数も手厚くしたいものです。
利用ニーズと、事業所の体制をしっかり踏まえた上で、お泊りデイサービスを運営していきましょう。
ケアの質向上と現場の働きやすさのために
デイサービス業界では、利用者の自立支援・重度化防止を目指した質の高いサービス提供とともに、人材の確保・生産性の向上といった課題が山積しています。事業者には、利用者にも介護従事者にも選ばれるより良い環境づくりが求められています。
しかしながら、デイサービスの業務は、日々の記録から利用者へのケア・送迎など業務量が多く、煩雑です。また、3年ごとに介護保険制度が改定されるため、それに合わせて体制を変えていく必要もあります。利用者やスタッフのために環境を整えたくても、課題が多く悩まれている方も多いのではないでしょうか。
弊社では、デイサービス向けに介護ソフト「はやまる」を提供しています。介護保険請求に加え、日々の記録・計画書作成・連絡帳・送迎管理・勤怠管理・売上予測管理など、デイサービスの業務全般をカバーする機能を搭載しています。「はやまる」を導入することで、デイサービスの業務全般を効率化でき、日々のケアに集中しやすくなるとともに、現場の働きやすさを向上することが可能です。
無料デモ・無料ヒアリングは随時受付中です。ホームページから詳しい資料をダウンロードしていただけますので、ぜひこの機会に導入を検討されてみてはいかがでしょうか。
プロフィール
田口 昇平 作業療法士/福祉住環境コーディネーター2級/取材ライター 作業療法士免許取得後、東京都内のリハビリ専門病院や介護施設などに勤務。 2018年よりフリーライターに転身。医療介護従事者への取材をしながら、現場の業務改善や労働環境づくりなど幅広いテーマで執筆。 |