【作業療法士解説】デイサービスにおける機能訓練とは?目的とメニュー例を紹介

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機能訓練とは、日常生活を送るために必要な機能を維持する訓練です。デイサービス(通所介護)では、手足を動かす運動プログラムから遊びの要素を取り入れた集団活動まで、いろいろなメニューが提供されています。
デイサービスの利用者様としては、全国的に見ると要介護度1~3の方が多いです。ここでは、機能訓練の目的をお伝えするとともに、座った姿勢や支持物を利用して行える機能訓練を紹介します。

デイサービスにおける機能訓練の目的

心身機能・生活能力は、何らかの活動をしないと必ず低下します。これは、介護度や介護が必要な理由に関わらず、すべての人に当てはまる体の基本的な性質です。
デイサービスでは、利用者の自立支援・重症化防止等を目的に、いろいろな機能訓練が行われます。活動機会を増やすことで、体力・筋力・認知機能・精神面・セルフケアといった心身機能・生活能力を維持することが大切です。
令和3年度の介護報酬改定では、機能訓練の提供が重要視され、「個別機能訓練加算」についてより多くの報酬が算定できる形に変更されました。実際に、厚生労働省の報告※では、「個別機能訓練加算の算定あり・機能訓練指導員の配置あり」のほうが、算定していない、あるいは配置していない施設よりも高い機能訓練の効果が発揮されている、といった結果が示されています。
肝心なことは、心身機能・生活能力を維持するには利用者様の活動機会を増やすことです。そのひとつの手段が機能訓練です。

※厚生労働省|通所介護及び療養通所介護(参考資料)

 

機能訓練のメニュー例

ここからは、デイサービスの利用者にとって、日常生活の中で課題となりやすい活動別に機能訓練を紹介します。

立ち上がり動作の維持を目的とした機能訓練

【いすに座った状態でもも上げ】
1.背もたれに寄りかからず座ります。
2.片側のももを上げ、1~2秒キープしてからおろします。
3.左右交互に10回くり返します。

 

■ポイント

・可能な限り上半身を伸ばして行います。背もたれに寄りかかったり、上半身が後ろに傾いたりすると、立ち上がりに必要な「腸腰筋」を積極的に使えないからです。

10回軽々行える方には、500g、1㎏等の重りを足首に巻き付け、足にかける負荷を調整します。

【支持物を使った立ち上がり訓練】
1.いすに座った状態で前方の手すりをつかみます。
2.両足を引き、体を前に傾け、手すりを下方に押しながら立ち上がります。
3.手すりをつかんだままゆっくりいすに座ります。
4.休憩をはさみながら10~20回行います。

■ポイント

・手すりを引っ張らず、下方に押しながら行うことで、しっかり足腰の筋肉が使えます。

・軽々できる方は、手すりをつかまずに軽く触れるか、手すりを持たずに体の前で組むことで、足腰にかける負荷を増やせます。

【支持物を使ったスクワット】
1.足を肩幅に広げた状態で立ち、前方の手すりをつかみます
2.手すりをつかんだまま、膝の高さまで腰を落とします。
3.元の姿勢に体を戻します。
4.10回くり返します。

■ポイント

・お尻の後ろにいすを置き、転倒によるケガを防止します。

・腰を落とす、元の姿勢に体を戻すことが軽々できる方は、手すりをつかまずに軽く触れるか、手すりを持たずに体の前で組むことで、足腰にかける負荷を増やせます。

・手すり以外に、平行棒やテーブル等でも行うことが可能です。

つまづき防止を目的とした機能訓練

【足裏でタオルギャザー】
1.いすに座ります。
2.床の上にタオル(フェイスタオル等)を敷き、その上に両足裏をのせます
3.5本の指(足趾)を曲げ、タオルをたぐり寄せます。
4.10回を1セットとし、1~2セット行います。

■ポイント

・かかとを浮かさずに、足裏全体でタオルをたぐり寄せます。

・軽々できる方には、タオルの上に重りや水入りのペットボトル等を置くことで、負荷を調整します。

【足の指を使ったビー玉つまみ】
1.いすに座り、足元に箱を2つ置きます。
2.右の箱にビー玉を10個入れます。
3.右足でビー玉を1個ずつつまみ、左の箱に移動します。
4.全部移動し終えたら、右足で、左から右の箱にビー玉を戻します。
5.今度は左の箱にビー玉を入れ、左足で同じようにビー玉を移動します。
6.利用者に合わせ、左右それぞれ1~5往復行います。

■ポイント

・複数人で取り組む場合は時間を測定し、お互いにタイムを競い合うのもおすすめです。

段差昇降動作の維持を目的とした機能訓練

【踏み台を使った段差昇降訓練】
1.手すり等、支持物の近くに10㎝台を置きます。
2.支持物につかまりながら10㎝台に乗ります。
3.そのまま10㎝台から降ります。
4.10回を1セットとし、1~2セット行います。

■ポイント

10㎝台が楽に昇降できる方、自宅に高い段差がある方は、20㎝台を使います。

・麻痺等で足の力に左右差がある方は、段差を昇る時に動かしやすい足からあげ、降りる時に動かしにくい足を先に出すようにします(覚え方:行きはよいよい帰りは怖い)。

【階段昇降訓練】
1.歩行練習用階段、または実際の階段を昇り降りします。
2.軽い疲労感を感じる程度行います。

■ポイント

・「ややきつい」「充実感がある」といった感覚を目安に、昇降する段数や回数を調整します。

・日常生活で階段を昇降する機会がない場合でも、玄関に上がりかまちがある、しっかり歩きたいといった生活環境・ニーズの方にはおすすめの訓練です。

 

物を取る・握る・つまむ動作の維持を目的とした機能訓練

【セラバンドを使った腕伸ばし】
1.いすに座った状態で、セラバンドを背中にまわします。
2.両脇の下からセラバンドを出し、両肘を曲げた状態でセラバンドを持ちます。
3.両手に持ったセラバンドを肩の高さまで突き出します。
4.両肘を曲げ、手を元の位置に戻します。
5.10回くり返します。

■ポイント

・セラバンドは、色によりゴムの強度が違います。セラバンドを肩の高さまで突き出した時に「ややきつい」と感じるくらいのセラバンドを選びます。慣れてきたら、より強度の強いセラバンドに変更し、負荷を調整します。

 

【物を握る運動】

1.いすに座った状態で、両手を肩の高さまであげます。

2.その状態で、手指を可能な限り開閉します(グーパーします)

3.10回を1セットし、23セット行います。

■ポイント

・両手をあげることが難しい方は、テーブルの上に両腕をのせ手指を開閉します。この場合は、やわらかいボール等を持ったほうが手指を開閉しやすいです。

 

【創作活動】

物を取る・握る・つまむ動作の機能訓練として、ちぎり絵、折り紙をはじめとする創作活動もおすすめです。ひとりで行うことが難しい場合は作業分担し行います。

例えば、「ちぎり絵」であれば、「紙をちぎる係」「のりをつける係」「貼る係」といった作業分担が可能です。また、切り込みを入れる、使う紙の硬さを変える等の方法で、難易度を調整することもできます。

■ポイント

・完成した作品は写真に撮る、施設内に飾る等して、デイサービスのスタッフやご家族と共有することが大切です。「できたこと」を称賛することで、次の活動へのモチベーションがアップしたり、自尊心が高まったりします。

 

認知機能の維持を目的とした機能訓練

2つの課題を同時に行うこと(二重課題)は、認知機能の低下を抑制することが明らかになってきています。特に、「運動」と「認知課題」を同時に行うことが推奨されています。
例えば、複数人で散歩をしながらしりとりや引き算をする、いすに座って足踏みしながら数を数える(3の倍数で手をたたく)等があります。

■ポイント

・はじめは考えることに夢中になりやすいため、散歩中に行う場合は転倒に注意する。

 

日常生活能力の維持を目的とした機能訓練

日常生活能力の維持を目的とした機能訓練としては、「料理」がおすすめです。
料理は、身体・認知ともにいろいろな機能が求められる活動です。五感が刺激されたり、他者と触れ合ったりするので、精神面にも良い影響があります。また、多くの方になじみがあり、目的や作業がわかりやすいのも特長です。
最近では、火の管理や感染予防の問題で、料理を行うのが難しい施設もあるかもしれません。そのような場合は「自分用におにぎりや太巻きを作る」等、メニューを工夫してみると、リスク管理しながら料理を楽しめます。

■ポイント

・りんごを切るだけでも、達成感をすごく感じる方もいます。

・調理のやり方やこだわり、思い出等を教えてもらいながら行うと、いきいきした姿を見せる方が多いです。

 

日常生活を意識した機能訓練を

機能訓練は、利用者様の日常生活を意識して行うことが大切です。課題となる活動に沿った機能訓練のほうが効果的なサービスが提供できますし、利用者様としても訓練の目的が理解しやすいです。
今回は、日常生活の中で課題となりやすい活動に焦点をあて、要介護1~3の方が取り組める機能訓練を紹介しました。デイサービスで行うのはもちろんですが、一人でできる方には、自主トレーニングとして生活習慣の中に取り込むのもおすすめです。例えば、いすに座ってテレビを見ながらももあげするといったように。
いつも体を動かすことを意識し、活動量を増やすことができれば日常生活能力が維持しやすくなるでしょう。

ケアの質向上と現場の働きやすさのために

デイサービス業界では、利用者の自立支援・重度化防止を目指した質の高いサービス提供とともに、人材の確保・生産性の向上といった課題が山積しています。事業者には、利用者にも介護従事者にも選ばれるより良い環境づくりが求められています。
しかしながら、デイサービスの業務は、日々の記録から利用者へのケア・送迎など業務量が多く、煩雑です。また、3年ごとに介護保険制度が改定されるため、それに合わせて体制を変えていく必要もあります。利用者やスタッフのために環境を整えたくても、課題が多く悩まれている方も多いのではないでしょうか。
弊社では、デイサービス向けに介護ソフト「はやまる」を提供しています。介護保険請求に加え、日々の記録・計画書作成・連絡帳・送迎管理・勤怠管理・売上予測管理など、デイサービスの業務全般をカバーする機能を搭載しています。「はやまる」を導入することで、デイサービスの業務全般を効率化でき、日々のケアに集中しやすくなるとともに、現場の働きやすさを向上することが可能です。
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プロフィール

田口 昇平

作業療法士/福祉住環境コーディネーター2級/取材ライター

作業療法士免許取得後、東京都内のリハビリ専門病院や介護施設などに勤務。

2018年よりフリーライターに転身。医療介護従事者への取材をしながら、現場の業務改善や労働環境づくりなど幅広いテーマで執筆。