厚生労働省は、令和5年(2023年)11月・12月に開催した介護給付費分科会で、以前から議論されていた通所介護の「送迎効率化」「複合サービスの創設」「入浴介助加算の見直し」について、対応案や方針を示しました。
ここでは、介護給付費分科会の資料をもとに、3つのテーマに関する対応案や方針をお伝えします。
「送迎」における取扱いの明確化について
通所系サービスにおける「送迎」は、介護保険制度の創設時には加算で評価されていました。その後、平成18年(2006年)の介護報酬改定時に基本報酬に組み込まれ、平成27年(2015年)の改定以降に送迎を実施しない場合に送迎減算が適用される形になりました。
近年、通所系サービスでは、利用者のライフスタイルの多様化や送迎ドライバーの不足等の課題が挙がっています。これを受け、介護給付費分科会では、「利用者のライフスタイルに沿った送迎「や「送迎の効率化」を図るための対応案として、以下の4点が示されています。
① 近隣にある親戚宅等、利用者の居住実態があり運営上支障がなければ、当該場所への送迎を可能とすること
② 他事業所のスタッフでも自事業所と雇用契約を結べば、自事業所のドライバーとして送迎が行えること
③ 業務委託契約(共同での委託を含む)にて送迎業務を委託している場合は、責任の所在等を明確にした上で、他事業所の利用者との同乗を可能とすること
④ 障害福祉サービス事業所が介護事業所と雇用契約・業務委託契約(共同での委託を含む)を結んだ場合は、責任の所在等を明確にした上で、障害福祉サービス事業者の利用者との同乗を可能とすること。
対応案②・③の複数事業所による共同送迎は、「令和3年度(2021年度)介護報酬改定に関するQ&A(Vol.3)」の中でも、送迎減算の対象にならないことが明記されていました。しなしながら、制度が曖昧で取り組みにくいといった指摘もあり、時期改定で、ルールを明確化される形です。
(参照元 厚生労働省|その他【高齢者虐待の防止、送迎】(改定の方向性))
複合型サービス(通所介護と訪問介護の組合せ)について
訪問介護のニーズが高まる一方で訪問介護員の人材不足が問題となっています。このような現状を受け、通所介護と訪問介護を組み合わせた「新たな複合型サービス」の創設が議論されていました。複合型サービスを創設することで、今後在宅における介護ニーズが増加しても対応できる体制を整えたいという考えからです。介護事業者の実態としても、半数以上が通所系と訪問系の双方の事業所を運営している状況です。
しかしながら、これまでも「介護保険制度は複雑である」と指摘されており、介護給付費分科会では、制度がより複雑化することに否定的な意見が少なくありませんでした。また、通所介護・訪問介護の複合型サービスを創ることで、どのようなメリットが得られるか十分議論できていない状況です。
以上のような状況を踏まえ、介護給付費分科会は、通所介護と訪問介護を組み合わせた複合型サービスの創設について「更に検討を深めることにする」との意向を示しました。
「訪問介護と通所介護を組み合わせた複合型サービスの創設については、介護給付費分科会における議論を踏まえ、より効果的かつ効率的なサービスのあり方について、実証的な事業実施とその影響分析を含めて、更に検討を深めることとしてはどうか。」
(参照元 厚生労働省|複合型サービス(訪問介護と通所介護の組合せ))
介護保険制度では12年ぶりの新サービスとして注目を集めていますが、次期改定に向けて新たな複合型サービスの創設には慎重な姿勢です。
通所介護等における入浴介助加算の見直しについて
通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所型介護においては、「入浴介助加算(Ⅰ)の算定要件に入浴介助に関する研修等を受講することを組み込む」形で、見直しされています。入浴介助加算(Ⅰ)は多くの通所介護事業所で算定しているのに対し、入浴介助に必要な技術習得のための研修を実施している事業所は4割以下となっています。厚生労働省としては、入浴介助の研修実施を要件に組み込むことで介護職員の入浴介助技術を向上し、より適切な形で介助が行えるよう促すのが狙いです。
一方で、入浴介助加算(Ⅱ)に関しては、算定要件を緩和する形で議論が進められています。これは、現行の算定要件になっている専門職の確保・連携が難しいこと、利用者宅に近い入浴環境の整備が難しいことから、(Ⅱ)を算定している通所介護事業所が極端に少ないためです。具体的には、医師や機能訓練指導員・ケアマネジャー等の専門職に代わり介護職員が利用者宅を訪問し、ICT機器を活用して専門職が入浴の状況確認・評価・助言できれば、算定可能とするものです。
(参照元 厚生労働省|令和6年度介護報酬改定に関する審議報告(案))
介護報酬改定、一部サービスは6月施行に
今回は、令和6年度(2024年度)介護報酬改定に向け、通所系サービスに関わる3つのテーマ―送迎効率化・複合サービスの創設・入浴介助加算の見直し―について、介護給付費分科会で示された対応案・方針をお伝えいたしました。
厚生労働省は12月18日に開催した介護給付費分科会にて、次期改定の施行時期を通所リハビリ・居宅療養管理指導・訪問看護・訪問リハビリの4サービスは6月、それ以外は4月とする方針を示しました。
改定の内容によっては、事業所のサービス体系を変えたり、体制を強化したりする必要が出てきます。今後は、改定に向けより具体的な内容がタイムリーに示されます。
本シリーズでは、今後も最新情報をお届けいたしますので、ぜひチェックしてみてください。